大砂嵐は今
アメリカ、アラバマで開催されたThe World Games 2022
各種スポーツ競技の国際大会で、夏季オリンピックの翌年に行われる。ボウリングとかスカッシュとかムエタイとかビリヤードとか…オリンピックには含まれない競技。(だが、トライアスロンなどは途中からオリンピック競技に移っている)その中に相撲がある。
日本の大相撲のように体重に関係なく一緒くたに対戦するのではなく、軽量級、中菱級、重量級、無差別級に分かれて土俵上で取り組みが行われる。
エジプトの軽量級選手 アブデルラフマーン・エルサイフィ(عبدالرحمن الصيفي)は決勝戦でウクライナの選手と対戦。サイフィはグレコローマンスタイルのレスリングの選手でもある。サイフィは立ち上がりすぐに蹴返しをするも、相手は懐に潜り込んでくる。それを、いなして押し出しで土俵外に相手を落とす。これで金メダル。喜んだ彼は土俵中央でバック宙をひとつして、ジャンプをひとつ。審判は静止させようとする。(行司ではない、シャツにズボンに白手袋の審判)勝ち名乗りを受けるために蹲踞(そんきょ)して待つが、バック宙に対して審判は彼を失格とする。
勿論エジプトチームは怒った。勝ったのになぜ?と、その怒りの急先鋒で現れたのがヘッドコーチのアブデルラフマーン・シャアラーン(عبد الرحمن شعلان)、かつて大嶽部屋に所属していた大砂嵐だ。アメリカで異種格闘技の選手として活躍している(らしい)大砂嵐はエジプトでは相撲の指導者でもある。
スキンヘッドにあごひげ、どくろプリントのタンクトップで迫力満点の大砂嵐は、腕を前に突き立てながら手を広げ、(エジプト人が怒る時の通常のしぐさ)土俵の周囲を歩きつつ大声で抗議をする。土俵上ではエルサイフィが蹲踞したまま何が起こったか理解できずに呆然としている様子。ますますヒートアップし怒鳴りまくりの大砂嵐に対し、アナウンスもきつい声で彼に出ていくように怒鳴る。警備員が(これまた恰幅のいいのが5~6人)現れて彼を土俵から遠ざける。
その後、審議の結果。な・ぜ・か
取り直しとなる。(取り直しにするなら勝ちを認めればいいのに)
取り直しの一番。ウクライナの選手がうっちゃりをかけて、エルサイフィは投げられ土俵下に落ちる。審判はウクライナに軍配をあげる(軍配は持ってないけど)が、土俵下の審判から物言いがあったのか、ウクライナのかかとが土俵から落ちていたのが先(実際、そう)とみなされたのか、エジプトの勝ちとなる。(決まり手のアナウンスや審判の解説などはなし)
おかしな流れだが、これでエジプト選手の強さは証明されたとも言えるだろう。
だが、ここでドラマは終わらなかった。
1日目が終了した後、審議が行われ、エジプト選手は突然 翌日からの競技参加を禁じられ、選手用宿舎からも即刻退去するよう言い渡される。大砂嵐のFBによれば、「道に追い出された」という。
エジプトの相撲チームのThe World Games 2022はこれにて終了となる・・・が、誇りを傷つけられ、その怒りはおさまらない。大砂嵐は連日のニュース番組やSNS等でエジプトチームに対する不当な扱いに怒りの声を上げており、時には涙を流しそうな勢いだ(エジプトの男は、悲しいときはちゃんと泣く)。
大砂嵐は言う
「これは大相撲ではない、これはアマチュアのSUMOレスリングなのだ。スモウ・リングは大相撲の土俵でもない。彼らは力士ではなく、アマチュアのスモウ・レスラーなのだ。自分は親方ではない、自分はアマチュアの大会でのチャンピオンだった者で、後に力士になったが、引退し、エジプトのナショナルチームのコーチになった。世界で行われるスモウ大会では勝者は誰もが様々な様子で喜びを表す、はしゃぐ者もいれば静かに勝利を祝う者もいる。人間だから、同じではない。プレイの仕方も人それぞれだ。私の教え子の決勝戦では忘れがたいことが起こった。勝利したというのに、再戦になった。これはあきらかにフェアではない。しかし、彼はそれに従い、(アッラーの祝福あれ)勝利をした。自分はアマチュアのスモウと大相撲において情熱をもって戦ってきた。それは何も変わっていない。同じ人間が同じ情熱を持ち続けている。すべてのチームと特にエジプトのチームの面々は私に腹を立てたと思う。もしそのエモーショナルな情熱のためにやりすぎたということであればThe World Games 2022のスモウ・フェデレーションに謝ろう。私はアスリートだ、しかも相撲のためだけのアスリートで、それだけしか知らないし、政治のことなど考えない。(略)」
バック宙が失格の理由だったのだろうか?シャアラーンの抗議の態度が大会追放の理由だったのだろうか?「神聖な」土俵、相撲の「作法」を果たして国際ルールに組み込めるのだろうか?(ムスリムに土俵を「神聖」だと従わせること自体が無茶)力士ではない、レスラーである。大相撲ではないアマチュアのスモウだという彼らに、そこいらの日本人だって守れない精神論を勝手におしつけていないだろうか?
国際相撲連盟が出した声明は以下
「すべてのスポーツにおいて、ルール、審判、および仲間のアスリートを尊重することが最も重要であり、審判の決定は常に最終的なもの。 男子軽量級において、エジプトチームのメンバーが審判の判定に同意しないという事態が出来した。このようなスポーツマンシップに欠ける行為は許されるものではなく、このため、エジプトチームはThe World games 2022の残りの相撲競技への出場を禁じられる。国際相撲連盟は、The world gamesが掲げるスポーツにおける公平性の原則を全面的に支持する。」
追い出されはしたが、エジプトの選手は金メダルを授与された。ウクライナの選手は銀メダルを授与された。
そして、ウクライナの選手は土俵上でウクライナと書かれたゼッケンを高々と掲げ、バック宙で喜びを表した。
その時、「失格」と手を挙げる審判はいなかったので、ウクライナのコーチが怒鳴りまくる場面も勿論なかった。それでも審判は公平で最終的なんだろうか?
写真はシャアラーンのFBより。https://www.facebook.com/abdelrahman.shalan.0610
私は相撲のファンだ。(大鷲以来のファンだ。)大砂嵐は番付外から応援していた。国技館でエジプトの国旗を何度振り回したことだろう。不祥事で廃業はがっかりしたが、おそらく彼は力士としての「引退」と「廃業」の違いも知らず知らされず辞めていくのだろう、人情味あふれる大嶽親方との関係も壊れてしまったのだろうと思うとなんだかもうやりきれなさでがっかり倍増だった。そして、大砂嵐がアブデルラフマーン・シャアラーンとして相撲に携わっていることを知り、勝手にほっとしている。ファンって、そんなものよね?